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福岡家庭裁判所小倉支部 昭和43年(家)1022号 審判

申立人 吉田進(仮名) 外一名

夫成年者 松本恵美子(仮名)

主文

本件申立を却下する。

理由

本件申立の要旨は、申立人等は夫婦であり、今後も米国に永住するつもりである。しかるに申立人等の本籍地には祖先の墳墓があるがその祭祀の主宰者には未成年者をあてたい。また未成年者が高等学校を卒業後進学、渡米等の意思があるならば、申立人等において現在および将来にわたり物心両面に出来るかぎり援助し、未成年者の幸福を希望するものであるから申立人等と未成年者との養子縁組の許可を求める、というのである。

調査の結果によると次の事実が認められる。

一、申立人等は昭和三年一二月二九日米国○○○○市で婚姻し、それ以来同市に居住しており、その間に三男一女を儲けたが、申立人等もその子等も今後日本に帰らず米国に永住する意向である。

二、申立人等は現住地に資産として土地家屋(価格二万五、〇〇〇ドル位)を有し、収入としては一ヶ月四〇〇ドル位(申立人両名合計分)を得ており生活状態は普通である。また申立人吉田進は本籍地に若干の不動産を所有しており、祖先の墳墓があり、その不動産の管理および祖先の祭祀は申立人の妹松本キクエが行つている。

三、未成年者は、申立人進の妹松本キクエの三男松本隆の長女であり現在父隆母ヨシエに監護養育されている。そして未成年者の両親は本件縁組に賛成している。

四、申立人等は、自己およびその家族が今後日本に帰らないので、吉田家が絶えることや先祖の供養を心配し、未成年者に日本の吉田家の家名を承継させ、先祖の祭祀、不動産(本籍地にある)の管理をさせるため未成年者を養女にするつもりである。従つて申立人等は未成年者を引取つて養育する気持は全くなく、また米国にある財産を相続させる意思もないが、ただ日本にある財産を相続させることを考えている。そして未成年者が将来生活に困るようなことがあれば生活の援助をしてもよいし、将来学資が必要になればその時に考慮するという気持である。

民法第七九八条において、未成年者の養子縁組について家庭裁判所の許可を要すると定められているのは、家名存続や養親となる者の利益を図る養子縁組を排斥するとともに、養子となる者の幸福が期待し得る養子縁組を認容するためであると解されるところ、本件について考えてみるに、上記認定のように本件申立は家名存続、祖先の祭祀を主たる目的とするものであり、且申立人等は未成年者を引取り監護養育することは考えていない。結局本件申立は家名存続、祖先の祭祀という目的のために形式的に未成年者を養子にしようとするものであり、本件縁組により未成年者に多少の財産上の利益があるとしても、未成年者の監護教育幸福という面からみると適当ではなく、民法第七九八条の趣旨に反するものといわざるを得ない。

よつて本件申立は相当でないからこれを却下することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 小河基夫)

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